テクニカルインフォメーション

発酵ガスモニタリング

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ファーモグラフとは

ファーモグラフⅢは、さまざまなガスの発生量、発生速度を、複数のサンプルから同時に測定できる連続ガス測定システムです。測定対象は、パンの発酵、ベーキングパウダーや発泡剤といった日用品から、水素ガスなどのエネルギー源も含まれます。
※初代ファーモグラフは農林水産省食品総合研究所(現:独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所)のご指導のもと開発されました。

ファーモグラフの用途

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本装置の測定データは、次のような用途でご利用いただけます。
  1)新規有用菌株の育種
  2)酵母の生産や製パン、醸造等における品質管理
  3)発酵微生物の最適な培地組成や発酵条件の探索
  4)日本酒等の酒類やバイオエタノール生産における発酵過程のモニタリングなど。

今後期待されるファーモグラフの応用分野
試料重量当たりのガス発生速度_トータルガス発生量.jpg

 

 

 

工業プラントのような大量・高速なガス発生ではなく、パン生地の発酵や醸造における発酵などのような、少量で長時間におよぶガス発生の活用は、身近なところでいろいろ使われています。
日常的に接しているパン、酒類等の食品だけでなく、発泡剤・洗浄剤等の日用品、排水やバイオマスの発酵処理等々。
そうしたガス発生の量や速度を調べると、意外と近い範囲にあって、ファーモグラフによる測定が期待されます。そんな測定対象を、トータルのガス発生量とガス発生速度で見直してみたのが左のグラフです。

 

ファーモグラフの原理

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ファーモグラフによる測定では、試料ビンに試料を入れてフタを閉め、ビンを密閉状態にしてから計測開始します。 試料から発生したガスは、試料ビンからチューブを通ってファーモグラフのマノメータに入り、その中の水を押し下げます。 すると、マノメータ・シリンダーの水柱が上昇し、その上昇分に相当する圧力をセンサーが検出し、その値を PC に送り、そこで体積に変換します。

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データ表示例

ファーモグラフによる測定データは、測定開始からのガス発生量の積算値である「トータルガス発生量」と、計測間隔毎の「ガス発生量」=ガス発生速度 で表示されます。 計測時の間隔(たとえば 5 分)は、計測終了後にデータ表示画面でプロットする間隔を変更することが出来ます(たとえば 10 分、30 分など) また、指定した温度への温度換算が出来ます。

 

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図:トータルガス発生量 10検体の発生量の積算値を経時的に一覧で表示

 

 

 

 

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図:左図のなかから試料1つのデータを拡大表示

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図:ガス発生量 10検体の計測時間ごとのガス発生量を一覧表示

 

 

 

 

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発生ガス速度.png

図:左図のなかから試料1つのデータを拡大表示

仕様
型式・名称 WSF-2000 MH 10ch Fermograph III WSF-2000 MH 20ch Fermograph III
方式 気液置換型、圧力検知方式(マノメータ・圧力センサ方式)
信号出力 シリアル出力(USB)
計測時間 分単位の場合1時間~90日/秒単位の場合1分~23時間59分※1
計測間隔 5、10、15、30、60、120分/5、10、15、30、60秒※1
チャンネル数

1~10(内蔵ガス測定時1~5)※2

1~20(内蔵ガス測定時1~10)※2

分解能 約0.2mL(CO2重量として0.4mg)
精度 ±2%+0.2mL
標準試料量 20g(小麦粉量換算/生地としては30~40g前後)※3
試料ビン容量 225mL(20g用)
電源

AC100V ±10V 50/60Hz 36VA
ACアダプター 1個

AC100V ±10V 50/60Hz 72VA
ACアダプター 2個

寸法

503mm(W)×152mm(D)×396mm(H)

503mm(W)×152mm(D)×396mm(H)×2台

質量

10kg

20kg

 
標準付属品

1、プログラムソフトウェアCD(Windows版)・・・・・1式※4

2、225mL(20g用)試料ビン・・・・・50個

2、225mL(20g用)試料ビン・・・・・100個

3、225mL(20g用)試料ビンフタ・・10個

3、225mL(20g用)試料ビンフタ・・20個

4、CO2吸収ビン フタ・・・・・・・ 5個※6

4、CO2吸収ビン フタ・・・・・・・ 10個※6

5、CO2吸収ビン・・・・・・・10個※6

5、CO2吸収ビン・・・・・・・ 10個※6

6、ポリウレタンチューブ(内径2.5mm/外径4mm) 20m・・・1本

6、ポリウレタンチューブ(内径2.5mm/外径4mm) 20m・・・2本

7、USBケーブル・・・・・1本 7、USBケーブル・・・・・2本
8、取扱説明書・・・・・1部

測定例

糖濃度依存的な酵母のガス発生量の経時変化

ファーモグラフを用いて、糖濃度依存的な酵母のガス発生量の経時変化を確認した結果です。
試料ビンに、各濃度の糖溶液100mLと、ドライイースト1gを添加、ビンを密閉状態にしてから、測定を開始しました。
発生するガスのトータル発生量は、経時的に増加していきます(図1)。
糖濃度の低いビンは、20時間程度でガス発生はとまり、トータル発生量の変化はなくなります。
一方、糖濃度の高いビンのガスのトータル発生量は、60時間程度まで増加することが確認できます。
同じ結果をガス発生速度としてとらえたものが、図2になります。
ガス発生速度のピーク(最大値)は20時間程度で、15gおよび20gについては、20時間のピークにおける単位時間当たりのガス発生量は、ほぼ同等であることがわかります。
またガス発生速度のピークのあとの発生量についても、糖濃度依存的に緩やかな減少がみられます。

ファーモグラフでは、この様に試料となる酵母の資化性の評価をすることができます。

酵母培養液のトータルガス発生量の変化.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                       図1:糖の添加量依存的なトータルガス発生量の経時変化   

酵母培養液のガス発生速度の変化.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                              図2:糖の添加量依存的なガス発生速度の経時変化

菌株ごとの発酵特性

ファーモグラフを用いて、3種類の酵母のガス発生速度の経時変化を確認した結果です。
1菌株だけが、異なる挙動を示しており、ガス発生量が少ないことが確認できます。

酵母の発酵特性 .jpg

実施例

パン生地のガス保持力やガス漏れ開始時間の評価

パン生地の評価では、発酵で発生した炭酸ガスを、どの程度の時間、保持し膨らむことができるか、いつ、パン生地の外側にガスが漏れだしてしまうのか、ということも重要となります。
ファーモグラフでは、パン生地のガス保持力やガス漏れ開始時間を評価するための測定モードがあります 。
試料パン生地を同じ重量の二つの生地片(ペア)に分け、それぞれ奇数と偶数チャンネルの試料ビンにセットします。奇数チャンネルでは発生したガスの体積は直接測定されるのに対し、偶数チャンネルではガスはアルカリ溶液の入ったCO2吸収ビンを経由するのでパン生地の外に漏れだした炭酸ガスは、吸収されます。パン生地内のガス、「内蔵ガス」は、この偶数チャンネルの計測値として得られます。

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パン生地の膨張から破裂によるガス流出までの流れ

以下に、パン生地内のガス発生による生地膨張から、生地の破裂による生地内からのガスの流出までについて簡単に記載します。

① スタート

パン生地の中で発生した炭酸ガスが、生地の表面を押し広げ膨張します。

左 : 試料ビン 右 : ファーモグラフ本体

内蔵ガス_(1).jpg

左 : 試料ビン内のパン生地の膨張 右 : マノメーターの水位の変化

パン生地の膨張1.jpg

② 膨張フェーズ

生地が炭酸ガスを発生し続け、表面が膨張していくと、ビンの中の空気が押し出されます。

内蔵ガス_(2).jpg

パン生地の膨張2.jpg

③ 漏出フェーズ

生地の膨張が続くと、生地表面が破れ、それまで内部に保持されていた炭酸ガスが外に漏れ始めます。生地の膨張はゆっくりとなりやがて止まります。

内蔵ガス_(3).jpg

パン生地の膨張3.jpg

④ 最終フェーズ

生地内で酵母が食べられる糖がなくなると、炭酸ガスの発生が止まり、
膨張も完全に止まります。

⑤ 吸収ビン使用

上記経路の途中に炭酸ガス吸収ビンを入れると、アルカリが炭酸ガスを吸収します。
すると生地の外の炭酸ガスは本体まで届かず、パン生地内の炭酸ガスで押し出された空気のみが計測されます。

内蔵ガス_(4-5).jpg

パン生地の膨張4.jpg

① と② のフェーズでは、パン生地は発生した炭酸ガスを内部に保持しています。
発生した炭酸ガスは生地表面を押し広げ、試料ビンの中の空気を外に押し出し、ファーモグラフにつながるチューブを通じて本体に到達した気体の圧力(後で体積に変換)が計測されます。
押し出された空気の体積は、生地の中で発生したガスの体積と等しいです。

③ と④ のフェーズでは、パン生地の表面が破れ、それまで生地内部に保持されていた炭酸ガスが外に漏れ出します。
この漏れ出た炭酸ガスが炭酸ガス吸収ビンに入ると、炭酸ガスは吸収されますので、試料ビンから外に出た気体の圧力は失われます。
厳密には、生地から炭酸ガスが漏れだすタイミングは、試料ビン内の生地表面とフタとのスペースやチューブ内部の容積がありますので、正確に測定することは難しいです。しかし、炭酸ガス吸収ビンを通したガスの体積が、吸収ビンを通さない通常測定の体積と違って来るタイミング(漏洩開始点)が、生地からガスが漏れ出すタイミングの比較的良い指標となると考えられます。

計測結果の表示

パン生地のガス保持力を評価した際の計測結果を以下に示します。
図1は、ガスの発生量の経時変化(トータルガス発生量 )、図2はガスの発生速度(トータルガス発生速度)を示しています。
パン生地の外にでたCO2は、炭酸ガス吸収ビンで吸収されますので、トータルガスよりも計測値が低くなります。
グラフ中に記載した「漏洩開始点」は、前述で説明した「③漏出フェーズ」に相当します。
この時間によって、パン生地のガス保持力・膨張力を評価します。
たとえば「漏洩開始点」の時間が遅いほど、ガス保持力の高いパン生地、「漏洩開始点」以降の「トータルガス」と「パン生地内部のガス」との差が早期に大きくなるほど、急激にガス保持力を失った、というように評価ができます。

内蔵ガス_グラフ(1).jpg

図1 : トータルガス発生量の推移
「トータルガス発生量」:炭酸ガス吸収ビンを介さないガスの発生量
「パン生地内部のガス発生量」:炭酸ガス吸収ビンを介したガスの発生量

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図2 : ガス発生速度の推移
「トータルガス発生速度」 :炭酸ガス吸収ビンを介さないガスの発生量
「パン生地内部のガス発生速度」 :炭酸ガス吸収ビンを介したガスの発生量

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動画で紹介

ファーモグラフⅢ使用方法