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レンズの基礎知識

はじめに

レンズとは、ガラスやプラスチック等の透明な素材を研磨して作られた、光を屈折させて発散または集束させる為の部品です。レンズを使用した身近な製品のひとつに、眼鏡があります。

本稿では、アトーの撮影装置のカメラに装着する、複数枚のレンズとフォーカスリングや絞りリング等の部品を組み合わせたレンズについて、ご説明させて頂きます。

レンズについて理解することで、装置の性能をある程度予想出来たり、周辺技術等と合わせて分析に適した工夫がされているかどうか等を読み取ることが出来るようになります。

アトーには電気泳動したゲルやウエスタンブロッティングした膜等を撮影する装置を複数ラインナップしてます。これらの撮影装置に使用されているレンズと周辺技術に関する項目は以下の通りです。

  • レンズの撮影範囲(焦点距離と画角)
  • レンズの明るさ(F値)
  • レンズの明るさ調整(絞り)
  • レンズのフォーカスと被写界深度
  • レンズの歪み(歪曲収差:ディストーション)
  • レンズの周辺減光とフラットフィールド補正

 

 

 

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レンズの撮影範囲(焦点距離と画角)

あるレンズを使用したときの撮影できる範囲は、そのレンズの焦点距離と被写体との距離に関係します。レンズの焦点距離とは、レンズ(の主点)から無限遠にある被写体の光が集光する距離のことを言います。レンズから距離aに置かれた被写体が距離bの位置に結像する場合、レンズの焦点距離fとの間には式1の関係があります。画角は結像側に使われる撮像素子(CCDやCMOS)の大きさで決まります。(図1)

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レンズの画角とは、撮像素子に結像できる撮影範囲を角度で表したもので、焦点距離の短いレンズほど画角が広くなり撮影範囲が広がります。   一般的なレンズの焦点距離は 50㎜ 程度ですが、アトーの撮影装置では撮影範囲を広くするために焦点距離の短いレンズが採用されています。アトーの撮影装置の仕様には、画角として撮影可能な範囲を記載していますが、これは角度では分かり難いためです。この点はご了承下さい。実際に撮影するサンプル(電気泳動したゲルやウエスタンブロッティングした膜など)の大きさや、1度に撮影したいサンプルの枚数を参考に、装置の撮影範囲で対応できるかどうかを判断します。

レンズの明るさ(F値)

高感度な撮影装置を選択する際に、感度の重要なファクターであるレンズの明るさの指標が「F値」です。F値とは、レンズの焦点距離をレンズの有効口径で割った値で、レンズの明るさは、F値の二乗に反比例します。つまり、F値が小さいほど明るいレンズであるということになります。

焦点距離が同じ場合、図2に示したように、口径の大きなレンズの方が多くの光を集められ、撮影された画像は明るくなります。F値を小さくするには、レンズ有効口径を大きくするか焦点距離を短くすることでF値が小さく、明るいレンズになります。

最近の一般的な一眼レフ型デジタルカメラ用の交換レンズは比較的明るいもので、F値は1.4前後です。アトーの撮影装置には世界最高峰の高感度を誇る「F0.8」レンズを採用し、高感度を実現しました。人間の目のF値は約1.0と言われていますので、F0.8のレンズは人間の目より高性能であると言えるでしょう。

 

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図2 レンズ有効口径と明るさ

レンズの明るさ調整(絞り)

絞りとは、レンズから入る光の量を調整する開口部分のことです。Iris(アイリス)とも言います。

レンズ内部には絞り羽根という部品が備わり、この絞り羽根を動かすため外側についているのが絞りリングです。この絞りリングを操作し絞り羽根を動かすことで“レンズ有効口径の大きさ(絞り)を変える”(≒意図的にF値を変更する)ことでレンズを通る光の量を調整できます。絞りを最大に開いた状態の事を「絞りを開放する」と言い、前述のF値はこの絞りを最大にしたときの値です。

 

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レンズの絞りを開いた状態で撮影する場合

・取り込む光の量が増えるため、明るい画像になり暗い被写体を撮影しやすくなります
・被写界深度が浅くなりピントが合う範囲が狭くなります。被写界深度に関しては後述します。

 

レンズの絞りを絞った状態で撮影する場合

・取り込む光の量が減るため、暗い画像になり明るい被写体を撮影しやすくなります
・被写界深度が深くなりピントが合う範囲が広がります。
・絞りを閉じた状態でも、若干、光を通すため、完全に真っ暗にすることはできません。

 

アトーの撮影装置の用途のひとつであるウエスタンブロッティングでは、薄い膜表面の非常に弱い発光像が被写体のため、絞りを開放した状態で撮影する事を推奨しています。
絞りを開放することで被写体を明るい画像で撮影できるため、撮影時間を短くすることができます。

絞りを開放して撮影する場合被写界深度が狭くなりピント調整が重要になります。次項ではフォーカスと被写界深度について解説します。

レンズのフォーカスと被写界深度

アトーの撮影装置のレンズには、ピント調整のためのフォーカスリングがあります。
例えば観光地で人の撮影をする場合、カメラと人の距離はいつも違いますから必ずフォーカスリングを操作して人にピントを合わせます。このときの撮影でピントの合う範囲が被写界深度です。F値と被写界深度の関係は次の通りです。

 

F値が大きいレンズは、ピントの合う範囲(被写界深度)が広く(深く)なります。
F値が小さいレンズは、ピントの合う範囲(被写界深度)が狭く(浅く)なります。

 

繰り返しになりますが、アトーの撮影装置の用途では、暗い被写体を撮影する機会が多いため、絞りを開放した状態で撮影する事を推奨しています。絞りが開いた状態は、被写界深度がとても浅くピントが合う範囲が狭いので慎重なピント調整が必要です。

アトーの撮影装置では、絞りが開放状態でもピント調整を容易にするため、被写体を置く位置に対応したフォーカス用の目盛がレンズに記されています。厚みの薄い膜やポリアクリルアミドゲル、5mm程度のアガロースゲルなどは目盛を合わせればピントが合った画像を撮影できます。厚みのある染色ゲルを鮮明に撮影しようとするするなら、絞りリングで絞りの値をやや大きくして撮影する必要があります。

アトーの撮影装置では、撮影用フィルターを装着することで、絞りを開放状態のままでもピントの合った画像を撮影できます。ウエスタンブロッティングの膜は微弱な面発光のため、絞りを開放にして撮影する必要があります。アトーの撮影装置では、撮影用フィルターの装着の有無で、発光・蛍光・可視光撮影を使い分けられるので、基本的には、絞りの微調整が不要になります。

 

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レンズの歪み(歪曲収差:ディストーション)

レンズには画像の周辺が縮んだり、伸びたりして、像が歪んでしまう歪曲収差(以下、ディストーション)があります。一般的には焦点距離が短いレンズほどディストーションが大きい傾向があります。ディストーションには以下のような種類があります。

・  画像の端ほど、より縮む場合は樽型の歪み(ディストーション)
・  画像の端ほど、より伸びる場合は、糸巻き型の歪み(ディストーション)

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アトーの撮影装置は、ディストーションが少ないレンズを採用しています。特にLuminoGraph Ⅱ EMLuminoGraph Ⅲ Liteで採用している高感度レンズは、F値が0.8と明るいだけでなく、焦点距離が18mmと短いにも関わらず、ディストーションが少なく、広い撮影範囲で鮮明な画像が得られます。

電気泳動パターンやウエスタンブロッティングパターンなどは、検出されるバンド濃さや位置が重要な情報となるため、ディストーションの少ないレンズが適していると言えます。

レンズの周辺減光とフラットフィールド補正

レンズを使って撮影する場合、画面周辺は中央に比べて暗くなります。これを、周辺減光と言います。

周辺減光により、撮影画像の中心と周辺部分に輝度(明るさ)差が生じます。アトーの撮影装置は、撮影した画像上のバンドやスポットの輝度差を数値化し、分析データとして利用します。レンズの周辺減光が影響して本来の輝度差をデータとして得られなくなることを防ぐため、アトーでは「フラットフィールド補正」という補正プログラムを採用しました。

フラットフィールド補正により、周辺部分が暗くならずに背景が均一な明るさの画像が得られます。
(図6フラットフィールド補正を行い、白色光源フラットビュアで CBB 染色ゲルを撮影した例)

 

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まとめ

電気泳動やウエスタンブロッティングなどで得られる結果を撮影して分析データとして利用するには高性能なレンズが必要不可欠です。

レンズについて理解することで、装置の性能をある程度予想でき、また、周辺技術等と合わせて分析に適した工夫がされているかどうか等を読み取ることができるようになります。

“焦点距離や画角”を理解すれば、実際に撮影可能なサンプルの大きさ≒“撮影範囲”の判断材料となります。

“F値”や“絞り”を理解すれば、“被写界深度”や、感度と関係の深いレンズの明るさや、の判断材料となります。

“ディストーション”や“周辺減光”といったレンズの特性が分かれば、それらを低減・補正する技術を採用する装置が分析用データの取得に適していることが理解可能となります。

撮影装置はレンズの性能だけで全ての評価ができるわけではありませんが、重要なファクターになります。

様々な装置の比較検討をする項目として活用する事が可能です。